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*研究紹介

 理論化学計算の発展により現在、比較的小さな分子に関しては 実験結果を定量的に再現し、さらには予測することも可能になりつつあります。 特に、反応の遷移状態の構造など実験的に解明しにくい化学事象については、 実験と相補的な情報を与えることができるようになってきています。そのため、 理論化学に対する大学や企業等での研究現場でのニーズは、年々大きなものになっています。

 山下・牛山研究室では、
I. マルチスケールシミュレーションによる触媒反応機構の解明、
II. 表面の構造・電子物性・化学反応の理論研究、
III. 計算化学的手法を用いた半導体材料の設計・解析、
IV. 少数分子の動力学と反応制御、
等の動的反応過程の理解に向けた理論モデルの開発をおこなっています。またミクロな世界とマクロな世界をつなぐ理論や計算技術の開発を行ないながら、 実験研究者と協力し合って、分子から地球まで、自然界の(物理法則の)持つ 階層性の理解に挑んでいます。

I. マルチスケールシミュレーションによる触媒反応機構の解明

a) 研究方針

 私たちの身の回りにある工業製品のほとんどは触媒を用いて合成されています。 そのため、触媒反応は基礎科学・工学的応用双方の面で注目されています。 なかでも、不均一触媒反応は、気相(液相)と表面近傍間の輸送、 表面への吸脱着、表面での拡散、反応、脱離といった、空間的にも時間的にも マルチスケールな問題であり、その物理化学過程の統合的なシミュレーションは 非常に難しい問題の一つです。

 山下・牛山研究室では、こうした表面化学反応の物理化学的過程を 統合的に取り扱うマルチスケールシミュレーション手法の確立を目指し、 実験研究者と共同で触媒表面の構造予測や、化学反応機構の解明を目指して研究を進めています。 研究に際しては、単なるシミュレーションに留まらず、必要ならば計算手法の開発も行いますが、 無駄に方法論の開発に固執せず、数値をもって科学(化学)する気持ちを大事にして研究を進めます。

b) 具体的な研究テーマ

c) 現在までの研究成果

 触媒表面化学反応の理論的研究を行いました。実験結果より予測されいてる (a) 固体酸触媒表面の 構造解析や (b) 固体酸触媒表面上で起こる化学反応機構を 理論的な観点から解明することを目標に 研究を進めています。

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II. 固体表面の構造・物性と化学反応の理論研究

a) 研究方針*

  表面での興味ある化学現象の多くは、表面と吸着原子・分子の微視的な相互作用に 起因します。我々も、CVDプロセスに関連した解離吸着、吸着分子種の表面熱反応と 電極表面で重要な電子移動などの化学反応過程について、理論化学計算に基づいた 分子レベルでの研究を行っています。また、量子化学に基づいた材料設計計算手法の研究も 行っています。

b) 現在取り組んでいる研究テーマ

c) 過去の研究テーマ

d) 現在までの研究成果

 表面・界面での電子輸送の理論的研究を行いました。(a) 金属/分子/金属接合での電子量子輸送と  (b) 表面間接励起により引き起こされる光脱離反応確率のフォント依存性に関した理論的手法の開発 に成功しました。これらの研究は表面・界面での局所励起による原子・分子操作、また新しいタイプの 量子スイッチや分子ワイヤといった分子デバイスの開発につながると考えています。

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III. 計算科学的手法を用いた半導体材料の設計・解析

a) 現在取り組んでいる研究テーマ

b) 過去の研究テーマ

b) 現在までの研究成果

 フラットパネルディスプレイや太陽電池など透明電極の需要が高まっている昨今、 ニオブドープ型酸化チタン(TNO;Titanium Niobium Oxides)は現在の主力材料である スズドープ型酸化インジウム(ITO;Indium Tin Oxide)の代替物質として期待されている 物質の1つです。TNOがもつ導電性について、密度汎関数法による第一原理バンド計算 を用いて研究しています。


IV. 少数分子の反応動力学と反応制御

a) 研究方針

 量子化学によるポテンシャル面と量子波束の計算により、気相・表面での 化学反応ダイナミクスのレーザー制御に関した研究を行っています。 超短パルスレーザーと分子の相互作用の解明、フェムト秒レーザーによる 光誘起表面反応や分子のレーザー冷却、また量子制御に対する自然放射などの 量子散逸の影響を調べています。最終的には、分子や化学反応を自由自在に 制御することを目指しています。

 近年、多くの研究分野において、量子コンピュータと量子情報科学が、次世代のテクノロジーとして注目を浴びています。 現時点で、量子コンピュータと量子情報科学の基礎的理論はほぼ完成され、それらを現実的に物質を用いた実験的、 理論的研究が盛んに行われています。化学の観点からすれば、分子は豊富な内部状態を多く持っており、 多くの可能性を秘めていると考えられ、私達は、分子を量子素子とした量子コンピュータと量子情報科学を研究課題としています。

 量子コンピュータの役割は、基本的な操作が、レーザー、観測などによって、量子状態のユニタリー変換などを 行うことにあります。従って、いかにして、目的とするユニタリー変換を行うかを理論的に明らかにすることも重要で、 このことは、量子コンピュータに限らず、化学反応などの量子制御の観点からも重要な課題といえます。私達は、頻繁に用いられている終端時刻拘束ありの最適制御理論に代わって、終端時刻拘束なしの最適制御理論を世界で初めて開発しました。 この理論は、従来の最適制御理論に比べ、より一般的で、様々な量子現象への応用も多いに期待されます。

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b) 現在取り組んでいる研究テーマ

c) 過去の研究テーマ

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